

とあるアニメで、主人公の中に常駐し、見たもの・聞いたことをすべて記憶し、問われれば即座に最適解を返す。そして問われなくとも、必要な瞬間に割り込んで警告を出す。
この存在を、自分のMacの上に作れないか。それが Project Athena の出発点でした。長年、頭の片隅にあった構想です。
似たものはすでにあります。ChatGPT も Notion AI も、蓄積された情報から答えを返してくれる。しかし決定的に違う点がひとつありました。それらはすべて、聞かれてから答えるのです。 Athenaの本質は、聞かれる前に把握して、必要なら自分から口を開くことにあります。
開発に着手する前に決めたことがあります。要件定義が完全に固まるまで、実装には入らない。
理由は単純で、この種のプロダクトは「動くけれど、思っていたものと違う」という結末になりやすいからです。技術要件は積み上げれば決まりますが、「Athenaらしさとは何か」を先に言語化しておかないと、完成したときに何かが決定的に欠けている。
最終的な要件定義書は、日本語版と英語版でそれぞれ1,100行を超えました。プロダクト定義、収集要件、データモデル、推論構成、割り込み設計、UI仕様、非機能要件、フェーズ分割。着手はそのあとです。
要件定義は無限に続きます。理想像が青天井だからです。だから最初に目次を確定させ、「何を埋めれば終わりなのか」を先に決めました。
いちばん難しかったのは、機能でもアーキテクチャでもなく、「いつ割り込むか」でした。
割り込み型のアシスタントで最も多い失敗は、精度不足ではありません。通知疲れです。無意味な割り込みが数回続くと、人はそれを無視する習慣を作り、その後は本当に価値のある助言も目に入らなくなる。一度失った信頼は、設定を変えても戻りません。
当初は、影響度・確度・緊急度という三つの軸で設計していました。妥当に見える枠組みです。しかしこのモデルは、検証の過程で二度、根本から作り直されることになりました。
作り直しのきっかけは、実際の判断サンプルを集めたことでした。
具体的な状況を21通り用意し、それぞれについて「強く割り込むべきか、そっと知らせるべきか、黙って記録だけすべきか」を自分で判断していきました。判断だけでなく、なぜそう思ったのかも言語化していく。
すると、想定していた軸とはまったく別のものが、判断を支配していることが見えてきました。影響度でも緊急度でもない、もっと根本的な基準です。詳細は伏せますが、その発見によって設計方針は大きく変わりました。
重要なのは、この基準は机上では出てこなかったということです。実際に判断してみて初めて、自分が何を基準にしていたのかが分かる。要件定義とは、頭の中にある暗黙の判断基準を、外に取り出す作業でもありました。
フェーズ分割を考えるとき、順序は慎重さで決まると思っていました。リスクの高いものを後ろに回す、という発想です。
しかし実際には、順序は構造から一意に決まりました。「この作業は以前と違う」と警告するには「以前」が必要です。「過去の実績と比べて」と指摘するには実績データが要る。先回りは、記憶が溜まっていなければ物理的に成立しないのです。
したがって、記録する → 思い出す → 先回りする、という順序は動かせません。これは開発計画である以前に、この種のプロダクトの性質そのものでした。
このプロダクトの成功をどう測るか。「割り込みの的中率◯%」のような指標も考えましたが、採用しませんでした。的中の定義が主観に依存する以上、測定可能に見えて実際には測れないからです。
代わりに置いたのは、もっと単純な条件でした。
Athena を止めたときに、「不便になった」と感じること。
機能の充足度ではなく、依存の発生で測る。この種の存在の価値は「あると便利」ではなく「ないと困る」で測るのが正確だと考えました。
v1.0 の実装は完了しました。しかし今の Athena は、まだ何も話しません。デスクトップの隅で青く光りながら、ただ記録を続けています。
これは不具合ではなく、設計どおりです。先回りするには記憶が要る。その記憶を溜めている最中だからです。何を見て、何を決めて、なぜそう判断したのか。それが蓄積されて初めて、Athena は口を開けるようになります。
そしてもうひとつ、設計で最もこだわった点があります。Athena は全能ではありません。踏み込まない領域を明確に持っています。何を言い、何を言わないか。その線引きこそが、この存在の性格を形づくっています。
どんな性格に育つかは、これからの対話次第です。
プロジェクト Athenaは現在モニターを募集しています。興味のある方はお問い合わせフォームよりご連絡ください。
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